『春は曙』
「春はあけぼの、やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそ
くたなびきたる。」
「春眠不覚暁(春眠暁を覚えず)
処処聞啼鳥(処処啼鳥〈しょしょ ていちょう〉を聞く)
夜来風雨声(夜来〈よらい〉風雨の声)
花落知多少(花落つること知る多少)」        『枕草子・漢詩より』

―序章―
春。
それは、
花が開く時。
女と男が、
1つになる時。
2人の愛人が、
確かめ合う時。

ずっと心に秘めた恋は、長く温めた分だけ、美しくなるという。
それなら、この恋も美しいのだろうか。
ずっと前から恋焦がれ、ひたすらに忍んで隠してきた恋。
それが今、初めて箱から放たれようとしている。
思う者の下へ、吹き抜けて行こうとしている。
静かに箱を開けて、
静かに中を覗いて、
静かに相手に向けて、
ひそかに放つ。

ある恋の、
物語。



1、嫉妬の竜の春
「初めまして。テンテンよ。よろしくね。」
「こちらこそ初めまして!ロック・リーです。よろしくお願いしますね!」
最初はその一言だった。何の前ぶれも無く、ソレは突然やって来たのだ。平穏な日常を
一発で壊し、嵐を起こした、そう、恋である。
リーがサクラを好きに成った時、テンテンは自分でも驚くほどに嫉妬した。何故サクラ
なのか、何故自分ではないのか、何故サクラなどの為に傷つくのか?あらゆる疑問が渦
巻いて、テンテンは溢れる怒りを抑えきれずに苛立ちを深めていった。心の中では、本
気でリーを恨んだ時も有るほど。そうかと思えば、リーを見舞うサクラを見て、悔し涙
を流していた。誰を恨んでも救われない気がして、テンテンは次第に離れていった。
もう、リーに話しかけたりしない。姿を拝む事さえしたくなくなった。
でも。
そうして自分を追い詰めるほど、
リーが愛しく、恋しくなって行った。
「リー。」
「テンテン・・。」
「ガイ先生から聞いたわ。手術なんですって?成功する確率も、50%なんですってね。」
「いえ、51%ですよ。」
「本当?」
「火影様が仰っていました。」
「そう。良かったわ。たとえ1%でも、上がってくれて。その方が、貴方が、・・その、
寿命が長くなったって事だもの。」
リーはニコッと笑いかけた。テンテンは何だか、自分がとても悪いことをしている様な、
否、していた様な、もどかしい気分になった。だがその時、サクラが来た。走ってきた。
2人の間に割り込み、テンテンなど見えていないかの様に喋りだした。
「リーさん、手術決まったの?!確率、低いって聞いたけど、本当?!い、嫌だよ、リ
ーさんがもし、死んじゃうなんて事になったら、私・・。」
ふつふつと、テンテンの中で怒りが熱さを増して来た。どうしようもない怒りが体の中
で心の中で竜のようにうねり暴れ叫びうごめき飛び出そうともがき始めた。
(何なのよ。)
「アンタ一体リーの・・。」
「サクラさん。」
叫んだテンテンを、リーが遮った。サクラが驚いた様に見上げる。
「すいませんが、席を外して貰えませんか。僕のことを心配してくれるのは嬉しいです
が、今はテンテンと話したいので。」
テンテンの竜は大人しく鎮まった。自分を選んでくれた事に、大きな意味を感じた。達
成感に良く似た、喜びの渦が竜の変わりに押し寄せてきた。
「良いですか、サクラさん?」
サクラがテンテンを見上げた。テンテンは得意そうにサクラを見て、フフンと鼻で笑っ
た。それがいけなかった様だ。サクラの顔がサッと火照った。
「な、何ですかその顔!勝ったみたいに見下して!リーさんのお見舞いにもろくに来な
かったくせに!」
「何ですって・・。」
あれは事情があった。まだテンテンが幼い頃に失った、兄の命日と呆れるほど綺麗に重
なったのだ。だから見舞えなかった。なのに、こんな所でこんな風に侮辱されるなんて
少しも考えなかった。
「私のお兄ちゃんの命日だったのよ!仕方ないでしょ!その後は何かと任務が来るし、
チームメイト全員お見舞いが難しかったのよ!何よ、サスケ君のおこぼれで見舞ったく
せに!私の気持ちも知らないで偉そうに!アンタ一体リーの何なのよ!惚れられたか
らって調子乗ってんじゃないわよ!ふざけないでよ、よくもぬけぬけと言えたもんだわ。
さっきだって、割り込んで来た分際で。最低よ。アンタなんて、サスケ君にくっ付いて
いれば良いのよ!!」
テンテンの竜は口から飛び出し、サクラをメタメタに叩きのめして立ち去ろうとした。
けれど泣き出したサクラを見て、危うい所で踏み止まった。
「サ、サスケ君は・・里を抜けて・・。ナ、ナルト、や、キバとか、ネジさんとかが追
いかけて行って・・。」
「え?」
リーは震えているサクラを心配そうに覗き込み、テンテンは動揺していた。ネジが、大
きな任務に行く事は聞いていた。だがサスケの追い忍だとは知らなかった。
「だから?」
「えっ・・。」
「だから何だって言うのかしら。」
テンテンはクルリと背を向けて、歩み去って行った。リーの呼ぶ声に一瞬足を止めたが、
居心地が悪く、無視をした。本当は、戻りたかった。

家に戻ってテンテンは、自分の部屋に閉じこもっていた。というより、拗ねていた。
「ごめんね、テンテン。命日の時の為に、いろいろ嫌な思いさせたみたいで。」
「やだ、お母さんのせいじゃないって。」
テンテンは母親に向かって笑ったが、その目は笑っていない。サクラを傷つけたことに
罪の意識はあるが、それでも、怒りは収まりを知らない。
今のテンテンに出来る事は、溜息を付く事しかなかった。リーの元へ戻った所で、どう
なると言うのだろう。サクラに謝るのは、自分の心が許さない。

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて、紫だちたる雲のほそく
たなびきたる」
「春眠不覚暁(春眠暁を覚えず)」
処処聞啼鳥(処処啼鳥を聞く)
夜来風雨声(夜来風雨の声)
花落知多少(花落つること知る多少)」

実際の春は、波乱の春で、とてもじゃないが、あけぼのや暁を拝んでいる余裕は無い。

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季節ごとに書こうかと思っています。
どことなくシリアスですが、最後はもちろん、ハッピーエンドを予定しております。
また、途中の『枕草子』、漢詩の引用、読みにくくてすいません。
ご要望と有らば、消してくださっても構いません。(載せる際)
その時には最後を変えなくてはいけませんが(汗)
あと、勝手にテンテンの兄を居る事にして、しかも殺してしまってすいません・・。(滝汗)



管理人コメント
美可流様より頂いた、素敵小説の第1章です。
何やら、ひと嵐来そうな雰囲気で、続きが凄く気になりますね・・・!!
兄の命日のため見舞いに来られず、サクラに嫉妬してしまうテンテン・・・この後どうなるのでしょうか。
大いなる期待と不安を残したまま、次回へと続きます。お楽しみに。
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